加藤一二三は大棋士か?

前の記事は、昔録画してあったビデオを見直して書いたものだが、検索してみると、この番組の書き起こしの記事があった。やはりネットの情報力は、すごい。

今となっては加藤先生は、すっかり愛嬌のあるかわいいキャラのようになってしまったが、60歳時の先生は凛としていて(当然、前歯もあります)、堂々たる風格があり、バラエティなどに出られるような雰囲気ではなかった。14歳でプロ棋士になり、20歳でA級まで上りつめ、60歳にして現役バリバリのA級棋士、天才であることに疑いようはない。しかし、通算獲得タイトルが8期というのは、この天才にすれば寂しいような気もする。加藤先生は、常に最善手を求め、自分がこれと納得できるまで、手を指さない。その結果、時間を使い切り、最後は秒読みの1分将棋となってしまう。加藤先生は秒読みになっても間違えないとのことで「1分将棋の神様」とも呼ばれたが、検証すると、やはり1分将棋でかなり間違えておられたらしい。大きな壁となった大山名人は、最善手出なくてもよい、相手が嫌がる手や間違いそうな手を指すといった柔軟な差し回しもあり、とことん最善手を追究する加藤先生のストレートな将棋のスタイルが、裏目に出たのかもしれない。将棋は、真理を追究するには深すぎるのだろう。大山名人に勝てなくて、神の加護も得ようと、クリスチャンになられたとも聞いた覚えがある。また加藤将棋の特徴は、ひとつの戦法を突き詰めて、繰り返し指すことだ。ただ、同じ戦法ばかり繰り返すと、敵も的が絞れるので対策しやすい。加藤先生が、柔軟に様々な戦法を使いこなし、最善手ばかりを求めず、むやみやたらと長考せず、時間配分も考えながら指していたら、もっとたくさんタイトルを獲得できていたのかもしれない。

でも、それでは加藤一二三ではなくなってしまう。たとえ時間がなくなろうが、対局者に少々失礼な振る舞いをしようが、常に次の一手の最善手を全力で追究する。その姿勢があったから、77歳までプロ棋士として将棋が指せたのだと思う。恐るべしは75歳にして、十代の棋士増田四段に勝利している。なお増田四段は、次の連勝新記録がかかった藤井四段の対戦相手である。