プロ棋士を目指すべきか

2016年、本棚には将棋の定跡書がずらりと並び、アマ強豪の個人レッスンも受けていた、小学4年生(10歳)の市岡君が、小学生名人となった。その後、期待されて、プロの登竜門である奨励会に7級で入会。しかし7級のまま昇級果たせず、退会となった。ベテランの将棋道場主は、将棋の強い子供がいても安易にプロの道を勧めない。奨励会の厳しさをよく知っており、その世界で、人生を棒にふった若者を数多くみてきたからだ。奨励会は将棋の天才少年少女たちが集まり、並の才能では通じない。また定跡の整備がすすんだ近年は、才能に加えて、受験対策のようなしっかりした勉強まで必要である。プロになるのも狭き門、プロになって、タイトル戦をとるような活躍ができるのも、ほんの一握りの棋士に限られる。棋士になるのは、東大に入るよりはるかに難しいだろう。その割に、一部トップ棋士を除いて、年収もそれほど高いわけではない。今、藤井四段ブームで、将棋教室が盛況との話も聞くが、プロ棋士になるという夢を持つのは、とりあえず止めておいたほうがよいだろう。将棋を学ぶと、集中力や思考力がつくと言われたりする。そうのなのかもしれないが、子どもの教育に将棋が役に立つなんてあまり思わず、楽しく遊べる趣味のひとつぐらいに、考えておいたほうがよいと思う。もちろん将棋から、得られる教訓もある。例えば、楽観視して気を緩めたり、焦って指したり、意表をつかれて頭がパニックになったりすると、大きなミスをしてしまう。これは、あらゆる勝負事に言えることで、どんな場面でも、感情に左右されず、冷静に対処できる心構えが、勝利するためには非常に大切だ。また、将棋では、常識だと思っていることが、必ずしも最善ではなく、常識外れの手がよい手であるということも、よくある。最近の定跡の進化で、昔の将棋の本では、やってはいけない手とされていたものが、実はよい手とされ、プロの対局でもどんどん指されたりしている。また人工知能の指し手は、これまで積み上げてきたプロ棋士の感覚を根底から揺るがしている。たかが64マスの将棋の世界でも、このようなことが起こっている。実社会においては、常識とされていることが正しくなく、非常識とされていることの中に、正解や真理が隠されているなんてことは、数限りなくありそうだ。